「今日、コンビニに行くって言ったのは本当だったんだ。でも一人で町を歩いてたらさ、ここで暮らせるのもあと少しかもしれないって思ったらなんか感慨深くなってきちゃって。だから適当に一人で町を歩いてた」

「なんで誘ってくれなかったの?」

「ヨヅキは宿題してたし、ヨヅキと過ごした町を一緒に歩いてたら弱音ばっか吐いちゃうかもって思ってさ。そんで適当に歩いてたらあの公園に着いて、あいつらが居たんだ。ヨヅキのお姉ちゃんとつるんでたのはこういう奴らかなって思ってたらリナちゃんがいて、そしたら自分でもその判断が正しいかどうか考える隙も無いくらい、当たり前みたいに話しかけちゃったんだ」

「なんで話しかけたの?」

「怖くなったんだ」って呟いた春華の声はすごく遠くから聞こえてくるみたいに小さくて、消えちゃいそうで怖かったからジッと春華の声だけに意識を集中させた。

「忘れられることが怖くなった。関わった人間みんなに忘れられていく。忘れられなきゃいけないから、俺が劣等生だったからここに居るのにさ。俺が生きてる価値ってこの力だろ?その為には″忘れられること″が大前提なのに、もう自分がどこにも存在してないって錯覚して怖くなった。だからもう劣等生でもいいから憶えてる人が居て欲しいって思ってしまったんだ」

春華の涙を初めて見た。
頬を伝う涙を指先でそっと拭った。
生ぬるくて、春華が生きてることを実感した。

確かにここに居るのに、なんで忘れていくんだろう。

「誰も憶えてなくてもいいじゃん…私は忘れない…忘れないから。春華を忘れないから…!絶対に私は忘れない…だから…」

「ヨヅキ」

「忘れないよ」

「忘れなきゃいけないんだよ」

「忘れない…」

私が忘れなきゃ、春華はこの先の未来を生きていけない。

間違いなく確実に自分を忘れてもらう為に春華はこの世界に来た。
私を大切だって言ってくれたのに、私の中からも春華を消そうとしている。

忘れない方法はある。
春華がこの世界で生きていける方法だってある。

私が願えばいいだけだ。

この世界で春華と生きていく未来を願えばいい。
千年先の未来の安寧が揺るごうと、歴史が変わってとんでもない事件になったって、遺伝子のリレーが滅茶苦茶になって子孫達が困り果てたって、春華と生きていける未来が約束されるなら、私はずるくなりたかった。

春華も同じように願ってくれるなら私は全てを捨てることができる。
君が居ない世界では生きていけない。