「春華…。想いを教えてくれてありがとう。でもね、もう私のこと好きじゃ無い?」

「好きだよ。好きじゃなくなることなんて無い。絶対に」

「でも元を辿れば私達は“家族”なんだよ。家族同士は恋愛をしちゃいけないって世の中なの。だからもう春華を好きだって想いも忘れなきゃいけない?」

春華はちょっと考える素振りを見せてから、またそっと私にキスをして言った。

「忘れないで」

「でも…」

「本当はそうなるかもしれないけど、今は家族じゃ無い。この世界ではまだヨヅキは子孫を残してないし、それくらいはご都合主義でも許されたいよ。俺はヨヅキを好きになっちゃった。ヨヅキを救いたくて、大切な人に逢いたくてここを選んだけど、この気持ちは”家族だから“じゃないよ。ヨヅキが好きだ」

私が何度春華のそばで願いを叶えるのを見てきても記憶が消えなかったのは、きっと一滴だけだったとしても同じ血が流れていたからだ。
その確率だって極めて低いし、もちろん私は超能力なんて使えない。

でもほんの僅かに二人の遺伝子が共鳴していたとしたら、忘れなかった理由も納得できる。

でもそれは私の願いを叶えていないからだ。
春華の力は願いを叶えた人物の記憶を消す。
自分を忘れてもらう為に。その為に修行に来たんだから。

「忘れたくないよ。でも忘れなきゃいけないんだよね」

「だから俺、リナちゃんに話しかけたんだ」

「え…」

春華の声が揺れた。
私と目も合わせられない様子で俯いた春華の手を握った。

ココアはとっくに冷めていそうだったし、アイスティーの氷も小さくなって、カケラみたいに浮いている。