「もう死んでしまおうって思った。もしかしたら何か幸せなことが起こるかもしれないって漠然とした未来を待つなんて恐ろしくてたまらなかった。ママは私を愛してるんじゃなくて、ママを愛してる私が、ママを裏切らない世界を欲しかっただけなんだって思った。誰の目にも映らないなら居ないのと同じだもん」

「死のうと思って飛び出したんだね」

「そう…。町の裏山のほうに入っていったら小高い丘になってて。小さい頃に友達と探検隊ごっことかして遊んでたんだけど、危ないからダメだって親達に止められてたんだよね。すごく久しぶりに入った場所で、そこで桜を見たの」

「あの桜だね」

「あんなに美しい桜、見たことが無かった。私が知ってる言葉じゃ表せない。風が吹いたらパラパラって花びらが舞ってくるのに力強くて、春の日のたった一瞬を必死に生きよう、生きようって思いが伝わったっていうか…。普段なら思わなかったかもしれない。自分の感情に都合良くすり替えただけだけど、それでもその姿は私の救いだった」

「だからヨヅキは産まれてくる子孫に桜の話を語り継いだ。その話に心を打たれた子孫達も次へ、次へ、語り継いでいったんだね。そして千年をかけて、俺の世界に届いたんだよ」

「春華が…あの時の私の希望なんだね…」

「ヨヅキの希望になったのはあの桜だけど、俺に生きてみようって気持ちをくれたのはヨヅキだよ。どんなことでも乗り越えてやるって、負けてられるかって思えた。君が俺にくれた名前は俺が生きる理由になった。大切な桜が咲く春を、ヨヅキが生きる世界で一緒に見たかった。これから先、生きていく強さにしたかった。だからヨヅキ…、君は世界で一番、俺の大切な人なんだよ」

「大切な人って…」

「そう。ずっと言ってたのは君のことだ」

「そんな…」

「やっと言えた」

その瞬間に私と春華の「大切」の意味が変わってしまった気がした。

春華が私に抱いていた想いはすごく嬉しいことだと思う。
これから先、一緒に生きていくことができなくなってしまっても、私が春華の生きる理由になるのなら幸せなことだ。

でも恋をした気持ちはどうしたらいい?
春華は知っていて私に好きだって言ったの?