「元々、どんどん壊れていく家族が怖かったのもそうだけど、あの頃あんなに頑張ったって結局誰にも私は見えてなくて、いい子で居ることに意味なんか全然無かったってそこで気づいちゃったのかな。そしたらもう全部どうでもいいやって自暴自棄になっちゃった」
「無意味なんかじゃないよ。ヨヅキは本当によく頑張ったよね」
「ありがと…。パパとママは必死で私を探したらしい。きっと“またか”って気持ちで。見つかった時にはこの前と同じようにいっぱい叩かれて…。私は自分の部屋に閉じこもって、布団に潜ってイヤホンで音楽大音量にしたりしてさ。ママの怒鳴り声も足音も全部聴こえないようにした。こんな家の中で逃亡したって何も変わらないのに。それから何日かしてさ、リビングでママがおばあちゃんに電話してるのを聞いちゃったの。私はママとはしばらく口を聞いてなかった」
「どんな電話?」
「“こんな時にこんなことするなんてもう信じられない。あの子は自分のことしか考えてないんだ。あんな子、もう娘だって思えない”って。二日間外泊した、たったそれだけのことで?って思うでしょ。でもママは本気だった。ママの安定を崩す私はとんでもない犯罪者みたいになっちゃったの」
「その春の日に見た桜が、そう?」
「そうだよ。まだお昼で、家を飛び出した。はっきりと憶えてる。四月三日だった。春華の誕生日だね。だから初めて聞いた時、運命かもしれないって思ったの。でも…運命なんかじゃ無かったんだね」
春華が「そんな顔しないで」って言った。
悲しそうな顔をしてるのは春華だって同じだ。
私達の感情はよく似ている。
嬉しい時、悲しい時、そばに居て欲しい時。
いつも同じタイミングで一喜一憂した。
だから惹かれ合った。
感情の居場所が心地良かった。
こんなに気持ちがやわらかくなれるのは春華のそばだったからだよ。