「春華?寒い?」

「ちょっと。風が強くなってきたね」

「ちょっとカフェで時間潰そうか。イルミネーションの点灯までは時間があるし」

「うん。俺、ココアが飲みたい」

春華はココアが好きだった。
家でもママが淹れてくれるココアを毎晩嬉しそうに飲んでいる。

私はココアが飲めない。
甘い飲み物は苦手だ。
だからいつもシュガーレスの紅茶かブラックコーヒーを飲んでいる。

一度だけ、春華が「美味しいよ」って、私の目の前に飲んでいたココアのカップを突き出した。
断れなくて一口飲んだ。
甘ったるくて、喉に膜が張った感じがして、おいしくない。

でも春華をガッカリさせたくなくて、おいしいねって嘘をついた。
春華は可愛い顔で微笑んだ。

繁華街のド真ん中に位置するカフェは、目の前の広場で毎年盛大に彩られるイルミネーションが見られるスポットだった。
何週間も前からキャラクターを模造した骨組みや電飾のセットが始められるけれど、点灯はイブの夜まで一度もされない。
だからイブからクリスマスの夜はこの辺りは人でごった返す。

まだ灯りも点いていないのに既に写真を撮り合ったりしている人が沢山居た。
その中には同級生や同じクラスの女子達も居た。

去年、一緒にイブを過ごそうよって誘ってくれた友達は、今年は私を誘わなかった。
喧嘩をしたわけじゃない。
学校では普通に話をするし、私がイジめられているわけでもない。

同じクラスじゃなくなった。
たったそれだけのことだ。

目の前のことが一番大事なだけ。
目の前のことを必死に生きているだけ。

きっとみんながそうで、誰も悪くなんかない。
春華が居なかったらクラスで仲良くしている子を誘っていたかもしれないし、家で大人しくしていたかもしれない。

来年だって、どうなっているか分からない。
なのに不思議と、来年も春華が居るんじゃないかなって思った。

私が春華を忘れる日まで、春華はここに居るって言った。
たった一年で、私は人を忘れたりしない。
一緒に暮らしているんだから尚更だ。

だからもしかしたら、来年もまた春華とイルミネーションを見に来ているかもしれないって思った。