最初に商店を覗いてみたけれどやっぱり居ない。
何度か行ったことのあるコンビニも本屋さんにも春華の姿は無い。

息を切らせて、走るペースが落ちてきて、だんだん早歩きから、遂には立ち止まりそうになった時には私は公園の近くまで来ていた。

公園は騒がしくて、見るからにヤンキーの集団が沢山集まっている。

最悪…。
小さい子も遊ぶ場所なのにこんな所で何やってるんだろう。

できるだけ関わらないで済むように、下を向いて通り過ぎようとした。

待って…。
あのベンチの下。
地面に転がってるのって…。

ベンチはヤンキーの集団が集まっている位置からはちょっと離れていて、それでも小さい公園だ。
そう遠くはない。

駆け寄った私は思わず大声で叫んだ。

「春華!!!」

「ヨヅキ…」

「春華…ち…血が…」

脇腹辺りを押さえて春華は地面に伏せっている。
血が流れている。
当たり前だけど私と同じ赤い血が。

「なんで…こんな…」

私の大声でヤンキー達の視線もこっちに集まってしまった。
十人くらいは居る。でも誰も私達には近づいて来ない。
絶対にこいつらの誰かがやったのに。

そんな中で一人、私達に近づいて来た女の子が居た。

「あんた、知り合い?」

「…莉奈ちゃん?」

「は?なんで知ってんの?」

「あ、いや…私、あなたと同じ高校で一個上なの」

「ふーん。なんで名前まで知ってんの」

「えっと、覚えてないかな?前に委員会が一緒だったんだよ」

口から出まかせだった。
まさか過去にあなたと一緒に猫を探したことがあるなんて言えない。

莉奈ちゃんはちょっと考える素振りを見せて、面倒になってすぐに「あっそ」って言った。

目の前に居る莉奈ちゃんは私の知っている彼女じゃない。

髪も金髪で派手なメイクもしている。
服装もかなり露出が高い。

いや、今はそんなことはどうでも良くて…!

「なんでこんなことになってんの?」

「あー、そいつと知り合い?だったら連れてってくんない?ここに居られても困るし」

「何言ってんの!?誰かに刺されてるじゃん!誰がやったの!?」

「うるさいなぁ。警察沙汰とかになったら面倒だって言ってんの!」

「人を刺しといて何言ってんのよ!警察沙汰!?なるに決まってるじゃない!そっちがそういう態度なら…!」

「ヨヅキ…大丈夫…大丈夫だから…」

「春華…大丈夫なわけないじゃん…早く病院に…」

「病院なんて俺…」

そうだ。
春華は保険証を持っていないし、入院なんてことになっても手続きができない。
このままじゃ春華は…。

「誰がやったの…教えて…」

「うるさいなぁ。…ねぇ!こっち来て!」

ヤンキーの輪の中から一人の男の子がこっちに歩いてくる。

見た目は莉奈ちゃんと同じように派手で、ピアスもいっぱいしてるのに、何故かすごくオドオドして見えた。

手の平や服に赤い物が付着している。
春華の血だ。

「莉奈ぁ…俺どーなんの…」

「知らないよ。自分で責任取りな」

「俺は悪くねーだろ!?こいつが莉奈にちょっかい出すから!」

「人殺しなんかしちゃったらあんたムショ行きだね。こいつらも許さないって言ってるし」

「オイッ!テメェらが悪いんだろ!?何ほざいてんだよ!」

「助かっても絶対に許さない!絶対に警察に…!」

「なぁ、俺、除籍か!?」

私の怒りになんか目もくれず、男は莉奈ちゃんに縋った。

除籍が何よ…。
あんたにはここにしか居場所が無いのかもしれないけど、春華の命と比べるな!

「だろーね。あんたの親は太くも無いし後ろ盾もないからね。誰も庇えないよ」

「嘘だろ…莉奈…助けてくれよ…」

「どう助けんのよ!あんたがやったんでしょ!」

「うるさい!!!」

私の声に、男がこっちを睨みつける。

「除籍がなんなのよ。そんな場所無くなったって…」

「俺にはここしかねーんだよ!俺を受け入れてくれたのはこいつらだけだった!」

「人を刺しといて何言ってんの…。綺麗事にもなって無い!」

「なぁ…頼むよ…もし助かったらさ…治療費でもなんでも出すし莉奈に近づいたこともチャラにするし…な?」

「だったら願って」