「ヨヅキ」

「ん?」

春華の匂い。
今まで春華には沢山触れてきたけれど、初めて感じる感触がした。

春華のくちびるの感触。
サッと触れるだけだったけど、たった一秒で春華は私に刻みつけた。

「春華?」

「キスしちゃったね」

「キスって…」

「ヨヅキの漫画で読んだんだ。女の子が嬉しそうだったから。ヨヅキとしたいなって」

「それちょっと変態っぽいよ」

「えー。酷いなぁ。嫌だった?」

私は首を横に振った。
春華は「良かった」って微笑んでもう一度、キスをした。

「ヨヅキ、好きだよ」

「私も。春華が一番好きで、一番大切」

「うん。ヨヅキ、本当に俺…本当に好きだよ」

何も要らない。
春華以外の記憶なら全部消えてもいい。

何もかも分からなくなって人生がリセットされてしまったとしても春華が居てくれるならそれだけでいい。

それなのに、なんで。
世界は私達を引き離すんだろう。

一番大切な人を忘れてしまった世界で、春華が願ってくれたように幸せになんてなれないよ。

私は毎日願った。
この夜の花火の色を、においを今日も思い出せますように。

春華の言葉を、キスのあたたかさを嘘にしないで。