普通の手持ち花火はパチパチとかシューシュー音がするけれど、線香花火はとても静かで、微かにチリチリと火花が弾ける音がする。

「小さいけどすっごく綺麗。俺、これが一番好きかも」

「私も。あのね、線香花火でもおまじないができるんだよ」

「え?どうやって?」

春華の火玉がポトっと落ちた。
けっこう大きな火玉だった。

「一緒に火をつけて、どっちが今みたいに落ちないで火花が続くか勝負するの。心の中でお願い事を唱えるんだけど、長く残ったほうの願いが叶うんだよ」

「本当に?」

「気持ちの問題」

春華は「俺のほうが凄いじゃん」ってハニかみながら、私に線香花火を差し出した。

受け取って、二人で一緒に火をつける。
二人分の線香花火の火花はすごく大きく見えた。

私の今の願いなんてたった一つしか無い。
春華と恋人になれたらいいな。
そしたらずっとこの世界に居てくれるのかな。

もしも歴史が変わってしまっても、私達がずっと一緒に生きていけるのならそれで構わない気がした。

身勝手な考えだけど、春華の孤独だって私が埋めてあげるよ。

そんな力使わなくったって私は春華が居るだけで幸せなのに。

私達の線香花火の火玉は二人同時に落ちた。

「終わっちゃった」

呟いた春華の声が夏の夜に消えていく。

「春華は何をお願いしたの?」

「それ、声に出しても大丈夫なの?」

「どうせどっちも負けてるからね」

「あはは。そうだね。俺は、ヨヅキの幸せな願いが叶いますようにって。ヨヅキの幸せが俺の願いだよ。ヨヅキは?」

無邪気な笑顔。
身勝手なことばかり願ってたなんて言えるわけないじゃん。

「私…は…、私も。春華の幸せを。私が居なくなっても…」