玄関のドアの前に花火が入った袋を準備してある。

お昼頃にコンビニで買ってきた。
ニパックあるし十分だと思う。

最近では電線が多いから、住宅地の周りでは打ち上げや噴き上げ花火は禁止されているから買えなかった。

でも春華は「本当に嬉しい」って、本当に嬉しそうに笑った。

家の玄関の前で、ろうそくに火をつけて、ろうをアスファルトに垂らす。
そこにろうそくを立てればくっついて倒れない。
たったそれだけのことなのに、春華は凄い凄いってやたらと褒めてくれる。

「じゃあ最初はこれね」

針金に固めた火薬が棒状にくっついてるやつ。
黄色、ピンク、緑、青なんかがあって、見た目はカラフルなお菓子みたいだ。

「この色の火が出るの?」

「残念だけどそれは出ないかな。全部、なんとなく薄いピンクって感じ」

「へぇ。ドキドキする」

「初めてだもんね」

春華は黄色をつまんで、恐る恐るろうそくの火に近づけた。

三秒くらいしたらシューって音がして、綺麗な火花がアスファルトに降り注いだ。

「うわぁ…」

「どう?」

「凄い。これが火薬のにおい?花火ってこんなに眩しいんだ」

「火花に触れちゃダメだよ。火傷するからね」

「うん」

春華の花火が終わって、次は私が青に火をつけた。

春華も一緒に握っていた青に私の花火を近づけたら、二人分の火花が舞った。

「さっきの何!?」

「おすそわけ」

「ヨヅキの花火がこっちに移ったんだ」

「そうだね」

春華がすごく幸せそうで私もすごく嬉しかった。

この花火は長く続くねとか、一瞬で終わっちゃったとか、「シケちゃってたのかな」って私が笑ったら春華も「ざんねーん」って笑った。

「ヨヅキ、こんなに素敵なことを教えてくれてありがとう」

「ううん。気に入ってもらえて良かった」

「俺、ヨヅキと花火をした夏のこと、絶対に忘れないよ」

「…春華は憶えていられるの?」

「え?」

「私は春華に願いを叶えてもらったらきっとこの夏のことも忘れちゃうけど、春華はそれから千年先に行っちゃっても憶えていられるの?」

「それが俺の力だから」

「そっか…そうだよね。うん、春華が憶えててくれるならそれでいいかな。ねぇ、最後に線香花火しない?」

「線香花火?」

パッケージから赤と黄色の薄い紙を撚って紐みたいな形状にした花火を取り出した。
火薬が入った先がぷっくりしている。

「これはね今までの花火よりもすごく繊細なの。やってみて」

春華に一本渡す。
ろうそくの火に近づけるけれど風が吹いて線香花火が揺れるからなかなか火がつかない。

風から守るみたいにろうそくに手で囲いを作る。

「危ないよ」

「これくらい平気」

春華がもう一度チャレンジして、今度はちゃんと火花が散った。