十二月二十四日。クリスマスイブ。
なんとなく、世の中は二十五日のクリスマスよりもイブのほうが楽しみにしている気がする。

午後三時頃、私と春華も出掛ける準備を始めた。

春華はうちにやって来た時は、なんにも荷物は持っていなかったのに、翌日にはママが春華用の日用品を揃えたり、
必要最低限の着替えを用意したりと、暮らしていくには困らなくなった。

近所の人が春華を見かけても誰も不審がらなかったことが、逆に私には不審だった。
順応性が高い、と済ませていいものなのか…。
ここまで来ると、私がただの分からず屋なのかもしれない。

「ママー、出掛けてくるね」

「遅くなるの?」

「分かんない。イルミネーション見たら帰るつもりだけど。寒いし」

「せっかくだから夜はうちで食べて欲しいわ。ビーフシチューにしようと思ってるの」

「美味しそうだね。八時くらいまでには帰るようにするよ」

「そう。春華くん、風邪引かないようにね」

「はーい」

ママがホッとしたように見えた。
そうだよね。去年も私はイブを家では過ごさなかった。

家で過ごすよりも、誘ってくれた友達と過ごすほうが絶対に大事だと思っていたから。
家で過ごす意味なんか無いって思っていたから。

ママは寂しかったのかもしれない。

「春華、行こっか」

「うん」

風が吹いたり、影に入ったらやっぱり寒いけど、今年は暖冬な気がする。
日差しの下ではアウターの前を留めなくても平気なくらいだった。
いつもだったら既に出しているマフラーもまだクローゼットにしまったままだった。

コンビニやファストフード店の前を通れば大声でフライドチキンを売る店員さんが居たり、、ケーキ屋さんの前でも箱詰めされたケーキが店頭で売られていた。

街中はカップルが多い気がするけれど、クリスマスだし意識してカップルばかりが目につくだけかもしれない。

「春華は彼女って居ないの?」

「彼女?」

「うん」

「恋人かー。居ないけど、ヨヅキは?」

「今は!居ないかな」

「なんで強調するの」

「べっつにー。その気になればいつでもって感じかなぁ」

「あはは。変なの」

強い風が吹いて、春華は顔をしかめてコートの前をギュッと手繰り寄せた。

もう何日も一緒に暮らしているけれど、まじまじと見る春華はやっぱり可愛い顔をしている。
声変わりがまだなのか、女子ほどでは無いけれど、声も若干高めだ。

正直に言うと、容姿のいい男の子が、血が繋がっているわけじゃないのにずっと同じ家に居るなんて、けっこう平気じゃ無い。

お風呂だってトイレだって気を遣うし、寝起きの姿なんて絶対に見られたくない。
春華が現れてから、家でもあんまり落ち着けていないのが事実だった。

唯一、寝る時は春華はパパの部屋を使っている。
一人になれる時間はお風呂かトイレか寝る時くらいで、就寝中はさすがに春華も私の部屋にはやって来ない。
来ようものなら絶対に家から即追い出してやろうと決めている。

春華が来てからネットや報道番組に張り付いていたけれど、春華っぽい子どもが捜索願いを出されている気配も無いし、
うちに親らしき人達からの連絡も無い。

いつまで続くか分からない生活に、″一人ぼっち″なのは私だけじゃないんだって、安心すら感じ始めていた。