「そういえばさ」

「うん?」

「春華ってなんでその爪だけ長いの?」

言いながら、私は春華の手を取った。

左手の人差し指。
ギャルってほどじゃないけれど、綺麗に切り揃えられた他の指と違って、そこの爪だけが明らかに長い。

「あぁ、これ?」

爪のフチをなぞるようにして、春華は笑った。

「なんで笑うの?」

「ううん。いや、ちょっとさ…、今まで俺のこと見てきて、俺のことすごい近未来の人間だと思ってるだろ?」

「そりゃあそうだよ。千年も先の人だし、その力だってあり得ないもん」

「うん。だからさ、今から話すことはたぶんヨヅキにとってもそう馴染みの無い物じゃないだろうから、笑っちゃうかもなって思って」

「え?どんなこと?」

春華が私の左の人差し指をスッと撫でた。
背中がゾクっとして、顔から火が出そうだった。
そんな風に男の子に触れたことなんて無い。
指先から電気が流れたみたいだった。

「何!?」

「左手の人差し指って、積極性とか夢を叶えるって意味があるんだって。そういうおまじないみたいなものって今もあるんじゃない?」

なんだ…おまじないか…結婚したら左手の薬指に指輪をつけるみたいな感じかって思った。

春華が触った指は人差し指だったけれど、もし薬指を触られていたら私の心臓は止まっていたんじゃないかな。

「確かに、そうだね。今は普通のことだけど、でもそんな古風…?なこと、春華の時代でもあるんだね」

「ことわざと同じなのかな。誰かがずっと言い続ければ忘れられずにずっと残っていくんだろうな。この爪はさ、俺が誰かの願いを叶えた指標なんだ」

「どういうこと?」

「人の願いを叶えるっていうのは本来、素敵な力だった。希望に溢れてた。“積極性″とか”夢を叶える“っておまじないにぴったりでさ」

「そうだね。夢があるよね」

「だから誰かの願いや夢を叶えるたびにこの指に希望の光が灯る。叶えた分だけほんのちょっと伸びるんだよ。本当はこんなアナログなことしなくてもラボや施設にはきちんとしたシステムがあるんだけどね」

アナログ、とは思わない。
人間の爪は栄養や日数によって伸びるか、自分で処理しないと縮んだりしない。