翌朝の十時。
ここのカフェは駅前にあるから、開店時間も早かったと思う。
十時にはすでに沢山の人が居た。

店内を見渡したけれど、友達はまだ着いていなかった。

私と春華は他人のフリをして別々の席に座った。

私の席から一つ空けて、春華が座る。
店員さんがすぐにオーダーを取りにきてくれて、私は苦手なココアを注文した。

あの日、春華が飲めなかったココア。
私は今でも好きにはなれないけれど、少しでも春華を感じていたかった。

予想通り春華もココアを注文して、二つ一緒に作られたのか、私達のココアは同時に席に運ばれてきた。

「ココア、嫌いなんじゃないの」

春華が周りに聞こえないようにひそひそ声で言ってくる。

「好きになりたいの」

「なんで」

「春華の好きな物だから」

「ヨヅキはやっぱり可愛いね」

「…やめて」

ココアを一口飲んだ。
甘い。
ここを出るまでに完飲できる自信は無いけれど、春華を近くに感じることができて、気持ちが落ち着いてきた。

少ししてから友達がカフェに着いた。

「ごめん。遅れちゃったね」

「ううん。来てくれてありがとう」

表情はもちろん明るくは無いけれど、私を気遣ってくれる言動がちょっと悲しかった。
こんな風になっても思いやる気持ちはある。

なのになんでうまくやっていけなかったんだろう。
私も友達も、この瞬間を捨ててしまえば二度と戻らないって分かっているのに、人生を変えるほどの決断をしようとしている。

後戻りできるなら今しか無い。
願いを叶えた後の未来で、私達が友達じゃ無くなったとしても、一生に一度のこの子の未来を取り戻せるのなら。