「あんたバカなの!?絶対辞めないよね!?そんなバカみたいなこと許さないから!」

私だって何を言ってるんだろうって思ってる。
この子の言う通り、やましいことなんて無いんだから「あの子の勘違いだ」って言って堂々としていればいい。

なのに…私にはその勇気が無かった。
みんなの視線。気まずさ。後ろめたさ。

ズルいって思う。私達には相談も無いまま、先にあんなこと言って辞めるなんて、そんなの言ったもん勝ちじゃんとも思った。

だけどずっと引っかかってるのはお姉ちゃんのことだった。

些細なことでお姉ちゃんの人生も私の家族も変わってしまった。
もしかしたらあの子の人生も変わるのかもしれない。

あともう少ししたら卒業するんだから、そしたら全部関係なくなるじゃん。
どんなに気まずくてもそれまで耐えればいい。

そう思えるほど私は強くなかった。
誰かの人生の責任を背負う勇気も無い。

「だってみんな、私達がかげでいじめてたって、たぶん思ってるよ」

「そんなんじゃないって言い続ければそのうち忘れるよ。今までだってどのクラスにも退学する子って居たけど、結局すぐ…忘れちゃうじゃん」

退学者は正直珍しくない。
理由は色々あったけれど、「退学する」って聞いたその一瞬だけ。
一週間もすれば話題にも上がらなくなる。

人間なんてそんなもんだ。
このことだって夏休みになればもう誰も何も言わなくなる。

春華の力が無くったって人間は忘れる。
たまにふと思い出せることはあっても、人生に関わったことすら完璧には憶えていられない。