「私はお姉ちゃんが大好きだった。小さい頃は滅茶苦茶な喧嘩もしたけど、お姉ちゃんが荒れてからも私のことは気にかけてくれてるって分かってたし、お姉ちゃんが帰って来なくなったのも、私に関わったら私まで壊れちゃうって本当に思っちゃったからだと思う」

「そんなこと無いのにね…」

「うん。お姉ちゃんが居なくなって私はもっと一人ぼっちになった。クラスで仲良くしてくれる友達が居ても、ここでもいい子にしてなきゃって気ばっかり張って。正直ね、お姉ちゃんが子どもを産んだ時、嫉妬したの」

「嫉妬?」

「あぁ、これで本当にお姉ちゃんは“私のお姉ちゃん”じゃなくて、ママになったんだなって。もう誰の中でも私は一番じゃ無くて、誰の為にも生きて無いんだって」

「そんなこと無い!ヨヅキ、誰かの為なんかじゃなくてもいいんだ。ヨヅキはヨヅキの為に生きるんだよ」

「私は誰かの一番になりたかった。絶対に変わらない場所が欲しかった。じゃなきゃ存在価値も分からない」

「ヨヅキはもう自分の為に生きていいんだよ。無理していい子を演じなくてもいい。いや…ヨヅキはいい子だけどさ、滅茶苦茶に怒ったって泣いたっていいんだ。自分の心を守る為だけに。誰かの為なんかじゃなくていい」

私は、悲しかった。
春華の言葉が。
すごく、すごく悲しかった。

「俺の為に生きて」って言って欲しかった。
春華の為になら生きててもいいって言って欲しかった。

そう言ってもらえたら私は絶対に何があっても春華の為だけに生きていけるのに。

誰かの為じゃなくても自分の為だけに生きてていいなんて綺麗事は要らない。
それが優しい春華の本音だとしても、ズルくても利用されてもいいから私は…春華の為に存在したかった。

「今はそう思えないよ。私は空っぽだから」

「ヨヅキは空っぽなんかじゃない。何も悪くない」

「家族はもう戻らない。パパは、そもそも血の繋がってない娘の為にあんなに頑張ったのに報われなくて、私もパパにこんなんだし、そのうち不倫するようになった。私は血の繋がりがないのに暮らしを守ってくれてるって感謝が足りなかったんだと思う。だからパパを責められない。許されることじゃないかもしれないけど…」

「ママさんは?」

「ママは違った。当然だよね。法律で契約した家族だもん。パパを絶対に許さなかった。ママはどんどんおかしくなって、そのうち寝室も別々になって、明け方までリビングで過ごした。学校に行く前にリビングを覗いたらそこら中にお酒の缶とか睡眠薬が散らばってた。春華が来るちょっと前までの話しだよ。それからパパの転勤が決まって、もちろん私達はここに残る選択をした。選択したって言うより、もう離婚は決まってたんだと思う。それでパパも転勤を決めたんだと思う。向こうでの職務が成功したらそのまま残るみたい。本社なんだって」

「ママさんは俺が来た時には普通に見えたよ」

「吹っ切れたんだと思う。今は専業主婦だけど落ち着いたら仕事にも復帰するみたいだし。元々保育士…子どものお世話をする人なの。子どもは大好きみたい。だからお掃除したり、お酒を控えたり、ママも随分と頑張ったんだよ。でもまだ“普通”とは言えないけどね。だって春華をこんなにあっさり拾ってくるんだから」

春華と顔を見合わせて笑った。
これはきっと運命だった。

春華が居なかったら私はママみたいに吹っ切れないまま、もっと腐ってたかもしれない。

でもやっぱり私は一人だ。
誰の為にもまだ生きられない。
春華は居なくなる。

そうなったら私は本当に…。