「最初は無視とかグループ内での仲間外れから始まって、そのうち有る事無い事言いふらされて、ちょっとずつクラスにお姉ちゃんの味方は居なくなっていった」

春華が助けたバスケチームの彼は、春華が失敗したことで記憶が消えなかった。
彼は春華を脅すことで再起しようとした。

お姉ちゃんは自分を傷つけることで感情の痛みに鈍くなろうとした。

ちゃんと応募してたって当たってたかも分からないチケットだけど、たった一つの嘘でお姉ちゃんの人生は大きく変わった。

「お姉ちゃんは学校に行かなくなった。そのうち中学の時の同じ歳の子で、悪いグループとつるんでる子が居てさ。その人達と一晩中遊んでは何回も警察に補導されてた」

「補導されたらどうなんの」

「よっぽど悪いことしてれば逮捕されるだろうけど、そこまでじゃない。十六、十七の子どもが夜中に繁華街をうろついてれば、そりゃあね。何度も警察からうちに電話が来て、そのたびにパパとママはお姉ちゃんを迎えに行って。酷い時は補導中に逃げ出して、一晩中お姉ちゃんを探し回ってた」

「ヨヅキはその頃中二とか中三だろ?どうしてたの?」

「ずっと一人で待ってた。あのリビングで、コンビニのお弁当だけを渡されて、“早く帰るから″って言葉だけを信じて何時間も待ってた」

「ずっと一人だったの?おじいちゃんやおばあちゃんには?」

「言えるわけ無い。ママは話してたかもしれないけど私は助けてって言えなかった。きっと元に戻るって思ってたから。パパは無関心なのかなって思ってたけど、その頃は必死でお姉ちゃんを探してたと思う。ようやく家に戻ってもママとお姉ちゃんは毎日怒鳴り合って…」

声が震える。その頃を思い出して、ちゃんと言葉にしたのは初めてだった。

「ヨヅキ…。ゆっくりでいいよ」

「ありがとう。…毎日怒鳴り合って、”もう限界だ″ってママがお姉ちゃんに包丁突きつけたりしてさ」

皮肉っぽく笑ってみたけれど、ただの強がりだ。
あの頃の光景ははっきりと脳裏に刻まれている。

「そんな風になってもこの家はお姉ちゃんを中心に回ってた。お姉ちゃんは気づいてないと思うけど、そうやってお姉ちゃんを探し回ったり憎み合って、それでもあなたを見捨ててないんだって愛情を押し付け合うみたいに、みんながお姉ちゃんのほうを向いて暮らしてた。私は私を見て欲しくて受験勉強を頑張って元々の成績よりウンと上の高校にも入った。いつもニコニコして、もうパパに点数もつけないし、ずっとママの顔色を窺ってた」

「ヨヅキはいい子だよ。よく頑張ったね」

私は首を横に振った。
とっくに家族は終わっていた。
私の悪あがきも届かずに。