「俺んとこのリーダーがそいつを見つけたのはたまたまだと思う。顔見知りだからって理由だけで俺が選ばれた。しばらくそいつとコミニュケーションを取って、いよいよ願いを叶えようって時に、念押ししたんだ」

「なんて?」

「人生でたった一度だけの願いだ。お前が取り返したい物、もしくは手に入れたい物。なんでも叶えることができる。一生に一度だけ、人生を賭けた願いはなんだ、って」

「その願いはなんだったの?」

「コーチに死んで欲しい」

「そう…だよね…」

「俺の目を真っ直ぐに見て、一切迷わずにそいつは言った。“俺の尊厳も夢も、大好きだった物も奪ったコーチに死んで欲しい。人生の願いなんてそれしか無い”って」

「叶えたの?」

「うん。バスケの練習の日、俺もついて行って、コーチが見える場所で、もう一度願わせた。“コーチが死にますように”。そいつが口にした瞬間に、コーチは指導中のコートの真ん中で倒れた。急性心不全。あのサンタの時と同じように騒然となって、コーチの突然死はちょっとした騒ぎになった」

「でも心不全なら事件性は無いじゃん。その男子がどれだけ記憶があるって主張したって都市伝説に乗っかった虚言だって…」

「録音されてたんだ。今までの全部。心が死んで、夢も無くなって、正常な判断もできなくなって。そんな状態の時に俺が現れて、俺の存在で金稼ぎをしようって思ったって。自分が世界を変えられると思ったって…。俺が願いを叶えた時、ちゃんと記憶が消えてればそういう証拠だって残らないはずだった。でも俺は失敗した。そいつはそのネタを売って、コーチが死んだ時よりも、世界を騒然とさせた」

窓の外がすっかり暗くなっている。
時計を見たら七時になろうとしていた。
本当だったら今頃、イルミネーションの点灯式が始まっているはずだった。

「俺が産まれたラボもグループも、政府もこの力を持ったトップの機関もとんでもない騒ぎになって、私利私欲を満たす為の“能力狩り”の予告とかも数えきれなくなってさ、トップ機関は、俺のグループのリーダーに向けて、俺に願わせた」

「何を?」

「世界を、あの男子を選ぶ前に戻してください」