大切な人。

春華の大切な人って誰なんだろう。
だって春華が生きる世界に桜は咲かないのに、おんなじ世界の人が、見たことも無い桜を大切に思うのかな。

そんなに大切に思う人が居るのに、なんで春華はこの世界に来たんだろう。

その人の為に桜が見たかっただけかもしれない。

なんでだろう。
そんな存在の人が居ることを、知りたくなかったって思ってしまった。

ちょっと一緒に暮らしただけで、春華は私にとってのなんでも無いのに…。

「ちょっと話戻しちゃってごめんだけど、春華の時代ではなんで家族は廃止されたの?」

「俺の時代って言っても何百年も前のことだけどね。あんまり詳しくは言えないけど、家族は結局ある程度の年齢になれば離れて暮らすことがほとんどで、でも個人のことよりも“家族”って責任が大きいからさ。家族主体よりも個人がどうあるべきかを重視しよう、それでも誰かとくっついて暮らしたいならお好きにどうぞって、乱暴な言い方だけどね」

「ふーん。私にとってはこれが当たり前だからやっぱりよく分かんないけど。家族が居るから救われてる人も沢山居るし」

「でも家族であるからこそ自分を押し殺して苦しんでる人も居たんだろうな、たぶん」

「そう…かもね…。でも結局さ、春華の命だって誰かの遺伝子が無きゃ存在しなかったんだよね。それって家族であることと変わんない気がするけど」

私の常識と春華の常識は、やっぱりどう頑張っても埋められない溝はある。

私も春華も自分が生きる世界のことしか知らないんだから。

どっちのほうがより良いかなんて、押し付けでしか無い。

結局どう感じるかは“個人”の問題なんだ。
家族で集まることの幸せも、解散して解放されたであろう人達も。

正しさなんて当事者にしか分からない。