「春華はどんなグループに属してたの?」

「“こういう力”のグループ」

「え?」

「俺達の時代ではごく稀に特殊な力を持った人間が産まれるんだ」

「透視の力?」

「ううん。それは付属品みたいな物で…」

透視の力が“付属品”だなんて贅沢過ぎる。
「千年」という時間は、随分と文明を変える力があるらしい。

「願いを叶えるんだ」

「願いを」

「そう。人の願いを、その人の一生に一度だけ、叶えることができる」

頭の中にはおとぎ話の、妖精が願いを叶えてくれる物語が渦巻いている。

でも春華は人間だ。そんなことがあり得るんだろうか?

でもでも、現に春華はやって見せた。
「サンタなんて消えちゃえ」って、あの男性の願いを…。

「その人が本当に心から願ってることじゃなくてもその…さっきみたいにちょっと口に出しただけでもやっちゃうの?」

「あれはズルだよ」

「ズル?」

「あいつは…あのサンタクロースは悪者だった。袋の中が見えちゃったから、止める為にああするしか無かった。だから無理矢理願わせたんだ。言葉にもされてないことを叶えるのはダメだけど、言葉にさえしてくれれば…俺はいつでも力は使えるから」

「そうなんだ…。でもあの人は自分が言ったせいだって思ってないみたいだった。それどころか私達のことなんて視界にも入ってないみたいだった」

春華が深く息を吐いて、「一生に一度だけだから」って言った。

「一生に一度でも願いを叶えてもらえた経験があると、人間は貪欲になる。歯止めが効かなくなって俺達をどうにかしてでも私利私欲を尽くそうとする。だから願いを叶えた人間の記憶は消えるようになってる」

「どうやって?」

「分かんないよ。今、俺が言ったことだって研究者達の間で“そうなんじゃないか”って言われてるだけで、まだまだ解明されてないことが多いんだ。なにしろ母体がすごく少ないからね」

「稀にしか産まれないんだもんね」

「うん。みんな“そういう力”が存在してることは知ってる。都市伝説みたいなレベルでだけどね。誰がその力を持ってるかは特級国家機密なんだ。グループの人間と、おんなじ力を持った人間が仕える研究所の人達、それから政府の選ばれた人間だけ。だから俺達のグループも、力を持った者の集まりだってことは明かされてない」

「周りはなんのグループだと思ってるの?」

「春生まれだよ」

「春生まれ?」

「そう。なぜかこの力を持ってるのは全員、春に産まれた人達なんだ」

春華は、ママが「春生まれなの?」って聞いた時に「桜が咲く季節だよ」って言った。

でも春華は「春」がなんなのか知っているみたいだった。
なんであんな言い方をしたのか不思議だった。