「その“上の者”って何?」

春華は目を閉じたまま、五秒間くらい黙った。
まつ毛が下瞼に影を作る。

本当に、普通の人間だ。
見た目に変わったところなんて見当たらない。

「んー…この時代ではなんて言ったらいいか難しいけど…会社?みたいなものと思って大丈夫だよ」

私が思っていた感じと概ね合っているらしい。
もっとややこしいのかもしれないけれど、そのほうが分かりやすくて助かる。

「家族が廃止されても全部をバラバラにしてたら収集がつかないからさ。一応、産まれたラボの、製造ラインによってグループ分けされるんだ。そのグループの中でも更に男女とか、血液型とか、産まれた月によって決まるんだ」

「春華はさっき“そういう体質”を“家系”って言ってたけど」

「そう言ったほうがこの時代の人達には分かりやすいかなって」

「まぁ…確かに」

春華がおもむろに私の手を握った。
冷たい手だった。

「春華?」

「今から話すこと、ヨヅキには一つも理解できないかもしれない。でも俺はここに居るから。本当に存在してるから、忘れないで」

「忘れ…ないよ…。だって目の前に居るじゃない」

「うん…そうだね」

まただ。
泣き出しそうな春華の声。

もう十四歳の男の子なのに春華はちょっと泣き虫みたい。

でも、まだ、十四歳なんだ。
そしてこの時代には存在し得ない命。

十四歳の男の子が抱えるにはどれだけ重たいことなのか、私には分からない。