「フレー フレー あーかーぐーみ……」
「頑張れー、行けー」

 グラウンドに白線で引かれたトラックの内側に、紅組の応援団が団旗をふって応援にいそしんでいた。
 その姿に、はっとなった。

__そうだ。落ち込んでいる場合ではない。応援、しなきゃ。

 応援は、いつだって力をくれる。

 私はそれを、知っている。

 小学生の時、運動会が苦手だった。
 みんなに見られて走るのも、「よーい……」で構えて待つ一瞬の時間も、心臓がドクドクする音も、胸を叩く感触も、足から血の気が引いてく感じも、好きじゃなかった。
 パンッとスターターが鳴った瞬間頭が真っ白になって、早速前のめりに倒れそうになる。
 震える足が、すくみそうになる。
 だけどスタートした瞬間、聞こえてくる。
 その声援が。

「頑張れー」
「行けー」

 その声が、震える足を前に前にと突き動かす。
 視界にちらりと映る団旗は、まるで追い風を作って、私の体ごと、前に押し出してくれるようにはためく。
 その大きな旗を、声を張り上げながら力の限り振り続けるのが、応援団。
 学ラン姿のその勇姿。
 その姿が、勇気をくれる。
 力をくれる。

 その存在は、まさに、ヒーロー。


 そんな存在に、私は憧れたんだ。
 私も、そうなりたいと。

「私も、行ってくる」

 我に返って、団旗を手に取った。
 そして、トラックのコーナーの手前に陣取り、大きく旗を振りながら、紅組と同じように声援を送った。

「フレー フレー しーろーぐーみ……」

 団旗は片手で持てるほど軽い。
 だけど振るとなると、大きな布が空気抵抗によってぐんと重くなる。
 大きく振るほど、遠心力で体ごと持っていかれてしまう。
 それに加え、今だ着慣れない学ランは、ごわついて動きにくい。
 それでも私はぐっと両手で団旗の棒を持ち、お腹に力を入れて、しっかりと体を支えた。

「白組―、頑張れー」

 コーナーを、選手たちが風のように駆けていく。
 駆け抜けたその背中を前へ押し出すように、私は旗を振った。

「行け行けー」
「最後までー」

 隣を見ると、チアの格好をした女の子たちが団旗を持って立っていた。

 チアリーダーに扮する女子団員が普段手に持つのは、お手製のポンポンだ。
 だけど今は、私と同じように団旗を奮っていた。

 目が合うと、力強くうなずいた。
 その口元には、心強い笑みが湛えられていた。

 応援席では、星君を中心に他の男子団員が前に立って応援席を鼓舞している。

「頑張れー」
「白組、行けー」
「最後まで諦めないでー」
「フレー フレー しーろーぐーみ……」

 私たちは、おのおの声を張り上げ、力の限り応援し続けた。