「吉川さん」

 閉会式に向かう私を、星君が後ろから呼び止めた。

「星君。リレー、お疲れ様。大活躍だったね」
「あはは。吉川さんたちのせいで、霞んだけど」
「え?」
「ううん。何でもない。団長がそろいもそろって大負傷なんて、そんな話題には敵わないってこと」

 星君は可笑しそうに笑って言った。

「でも、おかげでいい体育祭になったよ。生徒会長として、僕は嬉しい」

 くすりと笑う星君に、私も照れ笑いで返す。
 褒められているような、そうでもないような、気持ちは少し複雑だけど。

「二人が団長だったからだよ」
「え?」

 星君は声を落として、少し寂しげに言った。

「僕と一ノ瀬じゃ、こんないい体育祭は出来なかった。吉川さんと一ノ瀬だから、できたんだ」

 その切なげな表情を隠すように、星君はうつむいた。

「あのさ、これ、渡しそびれてたんだけど……」

 星君が差し出したものに、私は首をひねった。

「スポーツドリンク?」
「それ、一ノ瀬から。保健室に向かう前に、なんか押し付けられて」
「へえ、そうなんだ」
「はい、どうぞ」
「え? 私が、もらっていいの?」
「うん。だってそれ、僕にじゃないから」
「……え?」

 意味がよくわからずぽかんとする私を置いて、星君は走り去る。
 だけど、途中で足を止めると「吉川さん」と振り返って言った。

「僕だって、いい人じゃない時ぐらいあるんだよ」

「え?」

「焦ったり、嫉妬したり、みっともないズルをするときもあるんだ。嫌な奴なんだ、僕は」

「え? 星君が?」

 星君は「ふふっ」と可笑しそうに笑った。
 だけど、切なげな目を空に向けてつぶやくように言った。

「だってしょうがないじゃん。あいつのカッコ良さには、絶対かなわないんだもん」

 星君は私の方に視線を戻すと、彼らしからぬいたずらっ子のような笑みをにっと見せた。

「さあ、閉会式に行こう」

 そう言って、星君はまた走り出した。