十和田さんの機嫌を損ねてやめさせられるかもしれない恐怖。

次はどんなひどい仕打ちを受けるかわからない恐怖。

何度も自分に「がんばれ」って言い聞かせても、恐怖には打ち勝てなかった。


いつか興味がなくなってくれるのを、ただ願っていた。



そんな毎日から救い出してくれたのが、悠琳くん。


悠琳くんがいなかったら、わたしは今ごろ、学校をやめていた。

やめていなくても、十和田さんにいじめられて、心も体もボロボロだったかもしれない。


悠琳くんだけが手を差し伸べてくれた。

悠琳くんだけが寄り添ってくれた。

だから、わたしにとって悠琳くんは、特別な人なんだ。


……けれど。


「友だちとして、いい人だって思ってる。それだけだよ」


好きじゃない。

好きになんかならない。

好きになっちゃいけないんだ。



『璃衣。璃衣はお父さんのせいで我慢を覚えたけど、好きなことをやっていいんだからね?』


お父さんがやさしく語りかけてきた。