それに、将来ホテルスタッフの仕事につきたくて入った子もいるんだ。
この歳で夢を追う子もいるのに、侮辱するためだけに貧乏人と決めつけて、悪口を言うのはゆるせないよ。
「なによ、その顔」
十和田さんが眉間にしわを寄せた。そして、
「ほんとむかつく」
平手を振り上げた。
叩かれるっ。
「……っ」
わたしは、目をつむって歯を食いしばった。
後悔はない。
大切な人を侮辱されているのに、黙っているなんておかしいもん。
「おい、暴力女」
それはひどく冷たい声だった。
声だけじゃだれかわからないほど、聞いたことのない声色だった。
けれど、ふわりと鼻を抜けたにおいは、かいだ覚えのあるもの。
そんな、まさか……。
信じられない気持ちで、おもむろに目を開けた。
そこにいたのは、想像したとおりの人物だった。
「たかみ、くん……」
十和田さんは、振り上げた手の行き場をうしなってかたまっている。
彼女の友だちたちも、思わぬ人物の登場にあっけにとられていて。
まわりにいたS学生も足を止めて、こっちに注目している。