「俺も、やってみるか。」


「え!?」


池から離れたところにある白鳥像のもとへスタスタと歩いていく響を、紬が慌てて追いかける。


「水瀬君!そんなにカンタンには入らないよっ!?」


リュックの中に入っていた財布から100円玉を取り出し、構えている響を見て、紬が慌てて忠告する。


「私なんか、何十回やっても池にすら届かなかったんだから!池までの距離と、角度を、よーーく考えてですね…」


身振り手振りを加えて、あれやこれやレクチャーしようとする紬を、響がじっと見下ろす。


「まだ1回も成功してない人の体験談聞かされてもなぁ…」


「なっ…!」


ガーーンと言わんばかりの表情の紬を見て、響がフッと笑った。


「奈木野さん、俺、何部所属か知ってる?」


「え?バスケ部だよね、確か。」


「そ。しかも得点王、なんて呼ばれたりしてんの。だから──」


響がニッと笑ったのを見て、一瞬、ドキッとさせられる。


「絶対、入る。」


そう言うと、響は後方に向かって、サッと手を振り上げた。


紬の目線は、響が放り投げた100円玉を捉えた。


綺麗な放物線を描いて、空を飛ぶ、100円玉。


その行き先を目で追うと、すうっと吸い込まれるように池まで飛んでいき、
白鳥の両翼の中に、カラーンという軽快な音を立て、収まった。


「え!?すご!!えっ!?」


紬が池の白鳥と響へ、交互に目をやりながら、両手をパチパチと叩いてみせた。


思わずぴょんぴょんと飛び上がる紬を見て、響が満面の笑みで嬉しそうに笑った。


「やったね!」


と言って紬が差し出した手のひらに、響が手を合わせ、パンッと音を立て、2人はハイタッチした。