目の前で突然暑がる紫遥を見て、湊は暖房の温度を下げようかと思ったが、ブラウスから見える紫遥の細くて白い鎖骨を見て、その考えは翻った。


 特別色気があるわけでもなければ、わざと男に肌を見せつけるようなタイプでもない。けど、チラリと見える細い骨格や、柔らかそうな艶やかな肌が、湊の身体を疼かせるのだ。

 室温をもっとあげて、彼女が服を脱ぐ言い訳を用意しようか。そして、その白い身体の隅々にキスを落とし、自分のものだと主張する赤い跡をつけられたら……。
 

 湊はそんな考えに頭を振る。突如湧き上がった紫遥に対しての独占欲は、日に日に身体を蝕んでいるようだった。





 好きだった人。
 
 紫遥と再会する前はそう思っていた。もう過去の人なんだから、久しぶりに会ったところで思いが蘇るわけでもない。ましてや青臭い学生時代の話だ。自分は高校時代の思い出に浸り、少し懐かしくなっているだけ。

 彼女を抱きたいと思ったのも、単に男としてのプライドを守るため、失敗した初体験の思い出を塗り替えたかっただけだ。決して好きなわけではない。

 そう思っていたのに、あの日紫遥を抱きしめ、紫遥の身体の中に入り込んだ時の幸福感は何物にも代えがたかった。

 離れたくない。今度こそ、この女を離したくない。
 そんな気持ちで、隣で無防備にもスヤスヤと眠りにつく紫遥を湊は抱きしめたのだ。