後輩とはいえ、湊は自分とは住む世界がまったく違う人だ。学生の頃はあまり意識していなかったが、湊と自分は母親の胎内から出てきた瞬間から、様々なところで月とすっぽんの差がある。
 
 湊はきっと高級な産院で産まれ、待望の三男として親戚一同から祝福され、欲しいものはなんでも与えられたはずだ。
 きっと、明日何を食べて生きていこうだとか、母親がいなくなったらどうしようとか、そんなことを心配したことなんて、一度もないだろう。

 決して自分だけが不幸せな人生なのだと悲しみに酔いしれているわけではない。彼にもきっと彼なりの悩みがあって、それは決して私には理解できないし、彼も私の悩みなど理解できるはずないということを、紫遥はこの家に来て改めて思った。

 湊は、二人を2階にある一番奥の部屋に案内した。