紫遥のアパートからひと足先に出ていた湊は、タクシーを手配したあと、町田に電話をかけていた。

「明日から毎日先輩と真夏ちゃんの送り迎えを頼む。え?町田が無理なら、もう一人運転手雇えばいいだろ。久我の人間を使ってもいい。できるだけ乗り心地のいい車と、プライバシーを守れる口の固い運転手を用意してくれ。いや、仕事部屋じゃなくて、俺の家に住むから。……なんだよ、しばらくの間なら問題ないだろ。マスコミ対策の仕事はお前の仕事だ、任せる。事情はあとから説明するから。じゃあ」

 湊は矢継ぎ早にそう言って電話を切ると、はあと大きなため息をついた。

 アパートの近くで紫遥の姿を見た瞬間、隣に男がいたことに、なぜかどうしようもなく胸が痛んだ。

(もしかして恋人か?いや、紫遥の身の回りのことは町田に調べさせたが、恋人関係にある人物はおろか、デートをしている相手もいなかったはずだ)
 
 そんなことを考えながら、湊はそのまま遠目で二人の様子を見守っていたが、男が紫遥を突然抱きしめたのを見た時、ダメだとわかっていても飛び出して、男を突き飛ばしてやりたい衝動に駆られた。