「収入がなくなることが心配なんですか?それなら、これからは当分家政婦としての給与が入りますし、金額も今もらっている給与の倍ですよ?会社員としての仕事がしたければ、同じ条件で働ける会社なら山ほどあります」

 確かにお金のことや転職先については心配ないだろう。けれど紫遥は、今の仕事が単純に好きだった。
一度美術やデザインの分野から離れた身とはいえ、仕事でまた関われることは紫遥にとってかけがえのない、貴重な機会だ。
 

それに、先日の篠原との面談で、今のまま働いていれば来年正社員になれる可能性が高いと言われているのだ。

 真夏を大学まで出すにも安定した職に就きたいし、ここで下手に騒いで、上から目をつけられたくない。



 それに、篠原ではなく、嫌な思いをした自分が身を引いて、職を失うなんてこと、したくなかった。

 自分を性的に見る男の人が怖い。自分の将来が怖い。今のままで真夏を守れるかわからなくて怖い。けれど、だからと言って譲りたくはない。
 
身体は震えて後退りしていたとしても、この気持ちだけは意地でも動かすものか、と無意識に身体にぐっと力が入る。



 そんな紫遥の様子を見ていた湊はふと思いついたように言った。

「じゃあ、今日から俺の家で暮らします?」