改札を抜けたあとも、篠原は紫遥について歩き、仕事で困っていることはないか、とか、会社で仲良いやつはいるのか、とか、まるで紫遥の保護者のようにあれこれ詮索した。

 今の会社に入社してまだ一年も経たない新人とはいえ、今さらなぜそんなことを聞くのだろうと、不審に思いながら、篠原の隣を歩く。
 


 家まで続く小道に入った時に、「家までは申し訳ないので結構です」と伝えたが、篠原は笑いながら「遠慮しないで」と紫遥を前へと促した。

 さすがにちょっとおかしくないか?と思い始めてから数分後、紫遥の住むアパートが見えてきた。

「あの、もう家に着くのでこのあたりで……」

「駅から結構歩くんだな。街灯も少ないし、これからもよければ家まで送るよ」

 遠回しに帰れと言っても、この男には伝わらないようだ。紫遥は、会話が通じない気持ち悪さで、この場から走って逃げ出したい気分になった。
 
 ストーカーされてないか心配と言っていたが、むしろ今の状況的にストーカーはこの男だった。だからといって、今さらどうすることもできない。まさか部屋にまであがってはこないだろう。だが、もしものことを考えて、いつでも通報できるようにしなければ、とポケットの中のスマホをぎゅっと握りしめた。