それは一見、なんの変哲もない普通のアルバムだったが、そこに金字で彫られていたのは、間違いなく紫遥が通っていた高校の名前だった。
 
 (私と同じ高校の卒業生……?年が近いみたいだし、もしかして共通の知人がいたりして)
 
 そもそも、自分の高校からそんな有名人が出ていたなんて知らなかった。学業優先の進学校であったし、芸能の道に進む人など聞いたことがない。
 
 そう考えてからすぐ、例外だってあるわよね。と、考え直す。自分だって、そんな進学校では例を見ない、高校3年の夏に自主退学した【例外】の生徒なのだから。
 
 そんなことを思いながら紫遥がアルバムに手を伸ばすと、後ろから声がした。
 
 「懐かしいですよね」
 
 突然後ろから声をかけられ、紫遥は伸ばしていた手をパッと自分の方に引き寄せ、振り返った。
 
 その瞬間、時が止まったように紫遥は身動きが取れなくなった。時間にしたらものの数秒のことかもしれないが、その時の紫遥には果てしなく長い時間に思えた。
 
 目の前の男は、もうサングラスと帽子で顔を覆ってはおらず、美しい顔を顕にしていた。はっきりとした二重瞼に、東洋人とは思えない、彫刻のような綺麗な鼻筋、絹のように滑らかな肌は吸い寄せられそうなほどきめ細やかだ。

 そして、紫遥にはその美しい顔に見覚えがあった。
 
「久我くん……?」

 目の前に立っていたのは、高校の後輩、久我湊だった。