紫遥の言葉は、湊が期待していたものではなく、湊は苛立ちを抑えるためにぐっと唇を噛む。

「本当にそれが本心ですか?」

「うん」

 湊は紫遥が嘘をついているように見えて仕方がなかった。いや、嘘をついていると思いたかっただけなのかもしれない。

 やはり、紫遥は最初に思った通り、誰とでも寝る、いわゆる「ビッチ」の類いなのだろうか。
 だったらなぜ、自分はそんな女のことがこんなにも気になってしょうがないのだ。

「じゃあ、あの日、俺に抱かれたのも、俳優のMINATOとヤッたって自慢したかったから?」

「そんなんじゃなくて、私は……!」

湊の言葉に、紫遥は思わずムキになった。
しかし、「最初で最後の恋をした相手に自分の初めてを捧げたかったから」なんて重い言葉を吐けるわけもなく、口をつぐんだ。

しかし湊は紫遥を見つめ、次に続く言葉を待っていた。

すると、静まった部屋に、ガチャリと扉が開く音が響いた。

「お待たせ!……って、なんか喧嘩でもしたの?」

 お手洗いから帰ってきた真夏が、2人の間に流れる深刻な雰囲気を感じ取り、心配そうに尋ねたが、湊はすぐに笑顔を作り、「昔話をしてただけだよ」と、真夏を安心させた。

 その一方で、湊の視線からようやく逃れた紫遥は、緊張がほどけた代わりに、自分の身体が、どんどん柔らかなソファーの沼に沈んでいくような心地がしてならなかった。