「……」

「……」

 真夏がいると自然と空気は和らいだが、2人でいると途端にぎこちなくなる。
 無言に耐えきれなくなった紫遥は、ついに言葉を発した。

「あの、色々と迷惑かけてごめんね」

「迷惑、ですか?」

「私が写真撮られたから、こんなことになったんだし。久我くんに無駄な出費させちゃったのが、申し訳なくて」

「別に先輩のせいじゃないですよ。先輩を家に呼んだのも、引き留めたのも俺ですし」

「その事なんだけど……」

 紫遥はこの際だから、ずっと気になっていた事を湊に尋ねた。

「私を指名したのは意図的に?それとも偶然?」

「意図的です」

「そっか、そうだよね」

 Bistiaのスタッフ一覧には顔写真も載せているし、紫遥だとわかって指名しているのだろうとは思っていたが、紫遥が本当に聞きたいのは、なぜよりによって自分を指名したのか、ということだった。

「私ずっと、久我くんに嫌われてるんだと思ってた。だから、私を指名してくれたのが不思議で……」

「嫌いでしたよ」

紫遥がハッとして湊の顔を見るが、湊は前を向いたまま、言葉を続けた。

「けど、なんで俺のことが好きでもないのに初めてをあげるなんて言ったのか、なんで突然いなくなったのか、あの日先輩に何があったのか、聞きたかったけど聞けずじまいになっていたことが山ほどありました」

 そう言った後、湊がゆっくりと紫遥の方に顔を向けた。