家具のお金は心配するなと湊には言われていたものの、さすがに申し訳なく、あとでお金を返そうと思っていたが、この金額はさすがに自分の経済状況では手に負えない。

 湊には理由をつけて、ここでの購入は断ろう。やっぱり庶民にはニトリかIKEAに限る。それらの店だって、決して安くはないのだが、こんな店に入ってしまった後だと、あの良心的な価格に感動してしまいそうだ。
 
 「何か気に入ったものありました?」

 店員との話を終えた湊が、二人にそう尋ねた。

 「どれも素敵なんだけど、他のお店も見たいなーって。ほら、もう少しだけ価格が抑えめなところとか……」

「他のお店ですか?うーん。俺の家のインテリア、ほとんどここで揃えてるので、できればここから選んでもらえるとありがたいんですが」

 「え?ほとんどここで?」

 「俺、色んな店回るの好きじゃなくて、買い物する店、固定なんですよね。洋服とかも、毎回同じブランドで買っちゃいます」

 紫遥が驚いたのはそこではなかったが、一旦突っ込むのはやめて、いかにこの店の家具が自分たちに合っていないかを湊に説明した。


 そしてその1時間後、紫遥の説得も虚しく、3人は店内の奥まったところにあるVIPルームにいた。
紫遥は、店員にブラックカードを渡す湊の隣で、大人しく座っている。
 
 紫遥が選んだのは、この店の中でも比較的リーズナブルな(といっても、自分では手が出せない価格のものだったが)家具で、湊の「こっちの方が貴重な木材が使われていて……」という発言もすべて無視し、自分の罪悪感が最小限に抑えられるものを選んだ。
 
 とはいえ、購入品をすべて合わせると、ゆうに二百万は超えているだろう。ここまでお金をかけてまでスキャンダルを揉み消さなくてはならないなんて。むしろ、ここでかけた金額をすべて記者に支払えば、簡単に揉み消せるんじゃ?なんて思ってしまう。

 真夏はというと、紫遥の隣で呑気にアイスクリームを頬張っていた。IKEAにいかずとも、金さえあればフカフカのソファーに座って、ゆったりと美味しいアイスクリームを食べられる。そんなことを中学1年生で知ってしまったなんて、これから先が恐ろしい。これは普通のことではないんだぞ、と家に帰ってから口を酸っぱくして教えなければ。

 
 会計を終わらせ、そろそろ帰ろうかと立ちあがろうとしたところ、真夏がお手洗いに行きたいと言い出したので、突如、紫遥と湊はVIPルームに二人きりになった。