車が止まったのは、南青山の一角にあるモダンな外観のビルの前だった。

 壁に埋め込まれている、光沢感あるメタル板には「Shimizu BOUTIQUE」の文字が刻印されており、3階建てのビル1棟が丸々ショップになっているようだった。

 ガラス張りになっている1階には、モダンなインテリアの家具が並び、一角にはそのまますべての家具をリビングに配置できるようなモデルルームもあった。

 湊のあとに続き、あたりをキョロキョロしながら紫遥と真夏が店内に入ると、赤ワインのような高級なディフューザーの香りが鼻先をくすぐる。

「いらっしゃいませ、久我様。本日はどちらから案内しましょうか」

 グレーのスーツを見に纏った女性が、湊たちの前に颯爽と現れ、パンフレットを差し出した。

「先に2人のベッドを見ましょうか」
 
 静かな店内では、むやみに声を出すのも躊躇われる。紫遥は湊の問いかけに、頷くことしかできなかった。

「マットレスも一緒に見せてもらえますか?あとは……」

 湊が何やら店員と話している間に、何気なくソファーの値段が記載してあるプレートを見ると、200万という文字が見えた。

「にひゃっ……!?」

 思わず大きい声が出そうになり、紫遥は慌てて口を押さえる。
 思っていた価格帯と違う。高くとも4,50万くらいかなと思っていたが、数百万のソファーがこの世に存在するのか?
 それもこんな一人掛けのソファーで?

「紫遥ちゃん、このソファーの座り心地すごくいいよ!」

 目を離した隙に、真夏は高級ソファーの一つに深く腰掛け、その座り心地にうっとりと目を瞑っていた。

「ちょっと!これいくらか知ってるの?」

「知らない。いくら?」

「うんびゃく万だよ……!」

 真夏は聞いた事のないような値段に驚いて、跳ねるようにソファーから立ち上がった。