「なに、これ?」

「スキャンダルの記事が世に出た場合、俺が失う仕事と、その賠償金です」

「……っ!」

 白い紙に印刷された数字を見て、そのゼロの多さに、一瞬見間違いではないかと数え直すが、何度数えても結果は変わらない。

「先輩が協力してくれない場合、この金額の半分をお支払いいただくことになります。それでも断りますか?」

 500万の借金ですら、返すのに必死の紫遥にとって、それは一生働いても払えない金額だった。
 
紫遥は潤んだ瞳で湊を睨んだ。

「最初から私に断る権利なんてないってことね」

 紫遥の潤んだ瞳に、なぜか心がざわつき、湊はふいと目を逸らした。

「僕が悪人みたいな言い方しないでくださいよ。先輩にとってはメリットになることしか提示してないんですから」

「……半年間契約すればいいのよね」

「じゃあ……」

「わかった。住み込みの家政婦として契約する」

「ありがとうございます、助かります」

 湊は心の中でガッツポーズをしていたが、決して紫遥には悟られないよう冷静を装い、カメラの前で見せるような完璧な笑顔で微笑んだ。
 
 そんな湊の様子をミラーから見ていた町田は、湊がこうまでして守ろうとするこの女性が、どんな人物なのか、ますます気になって仕方がなくなるのであった。