困惑する紫遥を乗せて、車は静かに走り出した。

 誰かに見られることを考えて、わざと人通りが少ない早朝に部屋を出たのに、それが逆にあだとなってしまったのだ。まさかセキュリティーの厳しいマンション内に記者が潜んでいるとは思わなかった。

 「すみません、それで私はどうすれば……」

「簡単な話です」

町田の代わりに言葉を発したのは、湊だった。

 「先輩は、今日から俺の専属家政婦になってください」

 湊の突飛な発言に、思わず目が点になる。
 
 (久我くんの専属家政婦?私が?またBistiaを利用したいってこと?)
 
 「ちょうど住み込みの家政婦を雇おうと思っていたところなんです。専属契約しているBistiaのスタッフ、ということにすれば、あの部屋から朝方出てきたとしても不思議じゃないですし、なんとでも言い訳がきくので」

 「ちょ、ちょっと待って!住み込みってどういうこと?Bistiaはそんなサービスやってないはずだけど……」

 「兄に頼めば、そういうサービスも可能にしてくれます」

 「お兄さん?」

 突然でてきた「兄」というワードに顔をしかめると、湊が思い出したように言った。


 「ああ、そうか。先輩は知らないですよね。俺の兄、Bistiaを経営する会社の代表取締役なんですよ」