「仮屋紫遥のことを調べて欲しい」

 町田は、一人の女性、それもモデルでも女優でもない、一般人について調べろと言われたことに驚いた。
 
 仮屋紫遥というと、ついこの前、湊が指名した家事代行サービスのスタッフの名前じゃないか?
 
プロフィール画像を見る限り、仮屋紫遥は確かに美人の類ではあったが、だからと言って湊が自分に頼んでまで調べるほどの女性だろうか?もしかして、先日の訪問で、何か弱みを握られたとか?脅されているとか?

 やはり、湊の代わりに自分が対応すればよかった、と遅すぎる後悔をして、ため息をつく。


「何かあったんですか?特別な対応が必要でしたら、彼女に直接連絡をとって……」

「別に何もない。ただ、彼女は高校の先輩で……久しぶりに話して、今、どういう暮らしをしてるのか気になっただけだ」

 だったら、本人に聞けば良いのにと思ったが、湊は連絡先を交換するのを忘れたと答えた。

町田は湊の返答に訳ありの雰囲気を感じ取り、怪しんだが、湊の、何も聞くなよ、という無言の圧力によってただ指示に従うほかなかった。


 湊はいまや事務所の看板であり、元々小さかった個人事務所は、湊のおかげでここまで知名度をあげたといっても過言ではない。湊の命令に逆らうことは、町田レベルのマネージャーでも禁忌同然だった。