こうなったら平謝り作戦しかない!
 紫遥は、廊下に膝をつき、土下座して真夏に謝った。
 
 「ほんとごめんね!うっかり終電逃しちゃって、携帯も充電切れてて連絡できなくて……一人にしちゃって本当にごめん!」
 
 「ぷっ……!」
 
 え?と紫遥が顔を上げると、真夏がケラケラとお腹を抱えて笑いだした。

 「ちょっとやめてよ!朝帰りしたくらいで妹に土下座って!」

 「いや、だってさ……怒ってる、よね?」

 今まで、残業で日をまたいでから帰宅することはあっても、朝帰りをしたことは1度もなかった。
 
今年中学1年生になったとはいえ、真夏はまだ子供だ。家に長い間留守番させることは、保護者としては避けたかったし、何より土曜の夜に、隙間風が入るようなオンボロアパートに一人でいるのは心細かっただろう。

 そう心配する紫遥をよそに、真夏はあっけらかんとした口調で言った。

「怒るわけないじゃん!ちょっと朝帰りする娘を叱る親の気持ちになってみたかっただけ!むしろ私は嬉しいよ。だって、紫遥ちゃん、今年でもう26でしょ?一度も朝帰りしたことないなんて、そっちの方がおかしいもん」

「そ、そうかな……?」

「で、相手の男はどんな人?イケメン?付き合うの?」

「いや、あのだから職場の人だって……!」

「嘘つかなくていいから。だって首のそれ、キスマークでしょ?」

「……っ!」