紫遥が自宅に帰ると、玄関にはむすっとした顔の妹が腕を組んで座っていた。
 
「ちょっと!なんでこんなとこに座ってるの?風邪ひくじゃない!」
 
 まだ真冬ではないとはいえ、朝は冷える。街にはコートを着る人もチラホラいるくらいだ。
 紫遥の妹、真夏は、どんな時でも姉らしい姉の様子を見て、ため息をついて言った。
 
 「紫遥ちゃん、今何時だと思ってるの?」

 冷たいフローリングの上に座る妹を心配して、自分が朝帰りをしたという事実を忘れていた紫遥は、その言葉に萎縮した。
 
 「すみません、朝の6時半です……」

 「誰とどこにいたの?」

 「仕事関係の人と……渋谷に……」

 嘘ではない。客である湊と、湊の自宅マンションがある渋谷にいたのだから。

 しかし、真夏は紫遥の言葉を信じていないようで、腕を組んだまま、恐縮する紫遥を睨んでいた。