入籍日は適当に縁起の良い日に決めた。本当は再会した日だとか、付き合い始めた日だとか、思い出深い日にするつもりだったが、それよりも早く家族になりたいという気持ちが勝ってしまったのだ。
 
 そして、区役所に婚姻届を提出し終わったあと、湊は「少し歩きましょうか」と言って、紫遥の手をとって歩き始めた。
 
 春が過ぎて、蒸し暑い空気からは夏の気配がした。
 湊は相変わらずサングラスとキャップを被っただけの姿で隣を歩いていたが、こんなところにMINATO本人が歩いていると思わないのか、通りすがりの人々は気づいていないようだった。

 紫遥は晴れやかな空を見上げて言った。

「なんか、芸能人でも普通に婚姻届出して、結婚するんだね」

「当たり前じゃないですか」

「そうなんだけど、なんか拍子抜けしちゃった。役所の人も、大きな声で「おめでとうございます!」って言うし」

「あれは焦りましたね。もうちょっと配慮してくれよって感じですけど」

 そのまま行くあてもなくぶらぶらと歩いていると、額にポツと小さな水滴が落ちた。

「あれ」
 
 手のひらを広げて上を見上げると、ポツポツと続けて皮膚に水滴が当たった。

「雨、降ってきたかも」

「俺、折りたたみ傘持ってますよ。今日は夕方から豪雨だからって町田が……」

 そう言って湊は繋いでいた手を離して、背負っていたリュックを下ろした。