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 帰ってからすぐに、母親の居場所がわかったこと、真夏に会いたがっていること、そしてあのアパートの前で母親を追い返してしまったこと。
 すべてを真夏に話した。

 少しは動揺するだろうなと思っていたが、真夏の反応は拍子抜けするもので、

「お母さんが変わらずクズで安心した。もし改心してたら、ちょっと同情しちゃうもんね」と、笑っただけだった。
 
 あれだけ言うのを躊躇っていたことがバカらしくなるほど真夏は母親に興味を持たず、湊と紫遥が籍をいれたあと養子に入るのはどうかという提案もすんなり受け入れた。

「ねえ、真夏。本当にいいの?」

 真夏の反応の薄さが信じられず、紫遥は念を押した。あの母親に渡したくないのはもちろんだが、真夏に我慢させてしまうのも嫌だった。
 リビングで問題集と睨めっこしていた真夏は、顔をあげて訝しげに紫遥を見た。

「何が?」

「本当にお母さんに会わなくてもいいの?いつも会いたい会いたいって泣いてたじゃない。私に気を遣ってるなら、我慢しなくてもいいんだよ」

「泣いてたのって小さい時の話でしょ?お母さんとの記憶なんてほとんどないし、人生のほとんどは紫遥ちゃんと二人きりで暮らしてるんだから今更会っても、って感じ」

「そっか……」

 確かに自分と違い、真夏は5歳の時から母親とは離れて暮らしている。
 どんなに冷たい母親でも、紫遥にとっては嫌でも縋ってしまう存在だった。だけど、真夏にとっては取るに足らない存在なのかもしれない。

「私ね、」

 まだ納得していないような顔をしている紫遥を見て、真夏がぽつりぽつりと話し始めた。