「久我くん、私ね……」

 「もう、何も言わなくていいから」
 
 

紫遥は湊に口を塞がれ、吐き出そうとしていた言葉の数々を飲み込んだ。


 あの時、自分が湊に何を求めていたのか、なぜ絵を描くことをやめたのか、なぜ黙って湊の元を去ったのか、なぜ「好きだ」と言えなかったのか、全て打ち明けてしまいたかった。

 けど、それを今さら言ったところで何になるんだろう。湊は自分をおそらく憎んでいて、この行為も、あの時手に入れられなかったことへの執着心から来るものだということはわかっている。だから、すべて打ち明けたいというこの気持ちは、自分のワガママに過ぎないのだと、紫遥は自分自身を納得させた。

 二人は互いにちぐはぐな思いを抱きながら、今までの時間を必死に埋めるように、激しく求めあった。何年も前に終わった恋が、また花を咲かせようとしているとは思いもせずに。




紫遥は自分の上で果てた湊の、汗ばんだ頬をそっと両手で包み込み、最後まで飲み込まずにいた言葉をついに吐き出した。
 
 「会えてよかった」

 湊は、そう言って微笑む紫遥を見て、果てたばかりの下半身が熱くなるのを感じた。また紫遥が何かを口にする前に、唇を押し当て、紫遥の舌を探るように、深いキスをする。

 貪りつくようなセックスというのは、こういうことを言うんだろうか。


 湊は紫遥によって失われたものをまた、紫遥によって取り戻そうとしていた。