香織は眉を顰めて、紫遥の後頭部を見つめた。

「何よ。怒鳴り散らしたと思ったら次は頭下げるなんて。なんなの?湊さんもびっくりしてるわよ。ねえ?」

 香織は頭を下げてまで自分を拒絶する娘を前にして、面食らったようだった。
 明らかに動揺し、湊に視線を向け助けを求めるが、湊がその視線を好意的に受け取るわけもなく。

「お義母様」

「な、なあに?」

 湊は香織の手を握りしめ、にっこりと微笑んだ。

「お金なら僕が援助しますので、二度と彼女に近づかないでもらっていいですか」

 紫遥が下げていた頭を勢いよくあげ、湊を見つめる。
 香織はムッとした顔で声を荒げた。

「ちょっと何言ってるの?真夏も紫遥も、私の子供なのよ?」

「紫遥さんは僕と結婚して久我の籍に入ります。真夏ちゃんも僕たちの養子として久我家の一員になります。確かに二人を産んだのはあなたですが、この先の人生まで干渉する権利はないはずだ」

「養子?母親の許可なしにそんな勝手なこと……!」

「真夏ちゃんをこれまで育ててきたのは、紫遥さんです。真夏ちゃんがこれからも一緒にいたいと思うのも紫遥さんです。真夏ちゃんにとっての母親は、紫遥さんしかいませんから」

「湊くん……」

 真夏にとっての母親は自分しかいない。真夏本人に言われたわけでもないのに、紫遥は胸が熱くなった。