「あんたねえ、私があんたたちのためにどれだけ必死で働いてきたと思ってるの?」
「あんたたちがいなかったら水商売なんてする必要なかったし、再婚ももっと早く出来たはずなのに!」
「なんて親不孝な娘なの!あんたと一緒にいたら真夏まで悪影響だわ!」

 母親の責め立てるような声が、紫遥の頭の中でガンガンと鳴り響いた。
 母の言っていることは間違っている。自分は悪くない。罪悪感に駆られる必要なんてこれっぽっちもない。
 わかっているのに、幼い頃から染みついた「私が悪い」と自分を責める癖は簡単にはなくならない。

 隣にいる湊が徐々に険しくなり、母の言葉に苛立ちを隠せなくなっているのがわかる。言い返したくても、相手が紫遥の母親ということに変わりはないため、言い淀んでいるのだろう。

 湊が耐えきれず「あの……!」と身を乗り出したが、紫遥の声がそれを制した。

「お願いします」

 紫遥は頭を下げた。

「もう私たちに、真夏に、近付かないでください。お金ならできるだけ援助する。だから、お願いします」