「突然高校辞めたり、朝、黙って俺の家から出て行ったり、辛いことがあるのに俺に相談せず一人で抱え込もうとしてた紫遥さんへの仕返しのつもりでした。けど、さすがにここまで大ごとになるとは思わなくて。すみません」

「それは……ごめん」

 こう改めて言われると、自分もずいぶんと勝手なことをしてきたものだと、紫遥は少し反省の色を示した。

 それから二人は、今後の流れを再度確認した。
 今記者から逃げたとしても、いつかは紫遥も記者からの質問責めにあうことだろう。その時の対処法、事務所やファンへの報告、入籍手続き、籍を入れてからの家探し、真夏を養子にいれる手続き——。結婚、という二文字を実現させるために、やらねばならないことは多岐にわたる。
 
 
 湊から事細かな説明を受けている中で、普段からこんなに気を張って生きているのかと感心してしまう。湊ほどではないとはいえ、今後は自分もある程度注目される立場となるのだ。すっぴんのまま、よれよれの服を着てコンビニに行くことはもうできないのかもしれない。
 
 話がひと段落し、湊はふと紫遥の背後にある棚の上に視線を向けた。そこには紫遥と幼少期の真夏の写真が飾られていた。
 写真の中の二人は満面の笑みで微笑んでいる。歳の差のせいもあって、親子に見えなくもない。

「それで、真夏ちゃんに母親が会いたがってるってこと話したんですか?」

 湊がそう切り出すと、紫遥は言いにくそうに俯いた。
 家に帰ってから何度も話そうとはしたが、やはり真夏の反応が怖くて話すことができなかった。
 母親に会えると知り、嬉しそうな顔で喜ぶ真夏を見た時に、平常心を保てる気がしなかった。