「モテなくなったら結婚も出来ないし。俺、孤独死だけは嫌なんで死んでも家にしがみつきますよ」

 すると、紫遥は驚いたように湊の顔を見つめて言った。

「けど、私は久我君がどんな道を選んでもそばにいるよ」

「え……?」

「だから孤独死しないし、大丈夫」

 孤独死、というのは半分冗談で言ったつもりだったのだが、紫遥は真剣に受け止めたようだ。湊の手をガシッと掴み、励ますように声を張る紫遥に、湊は思わず吹き出した。

「なんで笑ってるの?」

「いや、すみません。なんか嬉しくて。先輩と老後も一緒だなんて」

「あ、そっか。そうなるね。一緒の老人ホーム入る?」

「それは検討させてください」

 ええ?と不満気な声を出しながら、紫遥は唇を突き出した。
 
 紫遥のまっすぐな言葉で、湊の心に張り付けられた硬い皮がぺりぺりと音を立てて剥がれ落ちていくようだった。

 彼女の言葉はいつだって本物だった。だからこそ、あの瞬間、湊の心は完全に紫遥に引き込まれたのだ。
 どこかで自分の気持ちをセーブしていたのにも関わらず、紫遥の引力はすさまじかった。どんな自分も受け入れてくれる、絶対的な安心感は、湊に「久我家」以外の選択肢を選ぶ勇気を与えてくれた。