その後、昼の生放送の撮影を控えている湊と別れたあと、すぐに真夏が待つ邸宅に戻った。
 昨夜帰れないことは連絡していたし、セキュリティ対策が万全の邸宅であるから大丈夫だとは思っていたが、リビングで呑気にフルーツの盛り合わせを頬張っている真夏の姿を見て、紫遥は肩の力が一気に抜けるのを感じた。湊の母親に呼び出され、自分でも気づかないうちに身体に力が入っていたのかもしれない。

「あ!紫遥ちゃんおかえり!」

「ただいま。ごめんね、留守番お願いしちゃって」

「全然いいよ!昨日は湊さんの実家行ってたんでしょ?どうだった?湊さんのお母さんもやっぱり美人だった?」

「……うん、綺麗な方だったよ」

 真夏の"お母さん"という言葉に思わずギクリとしてしまう。紫遥はポケットの中にある連絡先が書かれた紙切れを握りしめ、無理やり笑顔を作った。

「そんなことより、どうしたの?そのフルーツ」

 大きな皿にこんもりと盛られたフルーツの山は、とてもじゃないが真夏一人が食べられる量ではない。

「町田さんが持ってきてくれたの!ね?」

 真夏がキッチンの方にそう呼びかけると、エプロン姿の町田がひょっこりと顔を出した。

「湊さんに頼まれて、真夏さんのご飯作りにきてたんです。あ、もちろん昨夜は泊まってないですよ!自宅に帰ったあと、また今朝ここに来たのでご安心を!」

 真夏を一人の女性として気遣ってくれる町田に、思わず顔が綻ぶ。
 町田は熱々のスクランブルエッグとトーストが乗った皿を真夏の前に置いて、紫遥に「朝食は食べました?紫遥さんの分もありますけど……」と尋ねた。

「いえ、私は大丈夫です。色々と……ありがとうございます」

 そう言って頭を下げると、町田はなにやら罰の悪そうな顔をして「いえ。では、私は次の仕事があるのでこれでお暇させていただきます」と足早に出て行った。
 紫遥は町田のその様子に違和感を感じたが、特に呼び止めることもなくそのまま玄関まで見送った。