「待って」
 
 すると、不意打ちだったからか、紫遥はバランスを崩し、小さな悲鳴をあげて、湊の胸に倒れ込んだ。あの時よりずっと、小さくて細い身体だった。
 
 紫遥が急いで湊から離れようとすると、湊は紫遥を抱く腕の力を強めて言った。

「行かないでください。俺に、少しでも申し訳ないという気持ちがあるなら、ここにいてほしい」
 
「久我くん……」

 紫遥の声色には、動揺が感じられた。
 自分でも相手の罪悪感につけこむような引き止め方はずるいと思う。けど、こうするしかなかった。

 黙ったままの紫遥に、ほんの少し身を引いてじっと見つめてみる。紫遥は気まずそうに目を逸らしたまま、決してこちらを見ようとしなかったが、掴んだ肩が熱く、火照っているのがわかった。