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 翌朝7時に紫遥は目を覚ました。
 湊の実家に寝泊まりする緊張で昨夜は寝付けないかもと思っていたが、隣に湊がいる安心感からか、驚くほどよく眠れた。

 一方湊はあまり眠れなかったのか、紫遥が身体を起こすと一緒に起き上がり、身支度を始めた。
 まるで一刻も早くこの場所から出て行きたいと思っているかのようだった。

「ねえ、湊くん。やっぱりお母様に挨拶してから帰った方がいいんじゃないかな」

 紫遥が玄関に着くなりそう言うと、湊は首を振った。
 
「あの人のことは気にしなくていいんですよ。すぐ人の揚げ足をとって、否定しかしない人ですから」

「そう……」

 湊と母親の仲は相当悪いようで、母親のことを話す湊の顔は怒りに満ちていた。

 そんな湊のあとに続き玄関から外に出ようとすると、後ろから湊の母、聡子が現れた。

「もう行くのね」

「あっ……あの、お邪魔しました」

 紫遥は慌ててぺこりと頭を下げるが、湊はちらりと視線を聡子の方に向けただけで、すぐ背中を向けてしまった。

「あなたに何を言われようが、俺たち結婚するんで。もう構わないでください」

 湊は突然そう言った。紫遥は目を見開いて湊の方を見るが、湊は背中を向けたままだった。
 聡子は湊の背中を静かに見つめたまま、黙り込んでいた。
 そんな二人の様子に、紫遥は慌てて間を取り持とうとして口を開いた。

「あの、改めてご報告できればと思っていたのですが、湊くんと話し合いやはり別れるという選択肢は……」

「籍をいれたらまた改めて来なさい」

 聡子は表情ひとつ変えずそう言った。