「ただ、驚いたんです。湊くんのために、リスクをとってまで私の借金を返し、個人的なお金で私を援助してくださるなんて、本当に湊くんを大事に思っていないとできないことだと思います。少なくとも、私の母親は決して自分の身を削って娘を守るだなんてことはしてくれませんでした。私が誰と付き合おうが、傷つこうが、どうでもよかったんだと思います。それがどうしても辛くて、子供の時は心配してもらうためにわざと怪我をしたりもしてました。結局それも無駄だったんですが……」

 紫遥はもの悲しげに微笑んだ。

「なので、こうやって心配してくれるお母様がいるということが、本当に羨ましくて仕方がないんです」

 聡子は口をつぐんだ。 

 紫遥のことは念入りに調べたつもりだった。高校を中退しており、歳の離れた妹と古いアパートで二人暮らし。母親とは一緒に住んでいないにも関わらず、母親が作った借金を返すために派遣社員として必死に働く毎日。時間はかかったが、紫遥の母親が今どこで何をしているのか、そして真夏の父親が何者なのかも聡子は知っていた。
 しかし、それらの事実を知ることができても、彼女がどう感じ、どう生きてきたかは推測することしかできない。

 聡子は押し黙ったまま、視線を逸らした。なんと答えれば良いかわからなかったのだ。
 
「ですが、私の一存で湊くんと別れることはできません。私が釣り合っていないことが問題なのであれば、どちらにせよ、湊くんと話し合って決めさせてください。お母様に立て替えていただいたお金は必ずお返ししますので、少しだけ待っていただけると助かります」